に手をかけるなり、無造作にパッと開いた。「あッ、空っぽや」
「ウム、僕の思ったとおりだッ」大トランクの中は、果然《かぜん》空っぽであった。帆村は、そのトランクの中に頭をさし入れて、底板を綿密にとりしらべてみた。
「ああこんなものがある」
 帆村はトランクのなかから、何物かを指先に摘みだした。
 それは細いヘヤピンであった。彼はそれをソッと鼻の先へもっていった。
「ああピザンチノだ。南欧の菫草《すみれそう》からとれるという有名な高級香水の匂いだ、全く僕の思った通りだ。糸子さんはこの香水をつけている。するとこのトランクに糸子さんが入っていたと推定してもいいだろう。糸子さんはこのトランクのなかに入れられてこのホテルに搬びこまれたのだ」
「えッ、あの糸子はんが――へえ、そら愕いたなア」
 大川主任と帳場氏は、互いの顔を見合わせて愕いたのであった。そこで帆村は、二人に対し、蠅男の演じた奇略《トリック》をひととおり説明した。前後の様子から考えると、蠅男は三輪車を奪ってから、大胆にもこの宝塚にひきかえしたのだった。そして彼は多分池谷別邸のなかに幽閉されていたろうと思われる糸子に麻酔剤を嗅がせた上、こ
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