にあった。彼女の父親を、蠅男から護ろうと努力していながら、遂に蠅男のためにしてやられ、糸子を孤児にしてしまった。その責任の一半は、帆村自身にあるように思って、彼はこの上は、自分の生命にかけて蠅男を探しだすと共に、糸子を救いださねばならないと決心しているのだった。
暗い山路を縫って、約一時間のちに自動車は宝塚に帰ってきた。
そこで長吉は、西の宮ゆきの電車に乗りかえて、駐在所から貰った証明書を大事にポケットに入れたまま、帆村に別れをつげて帰っていった。帆村はこの少年のために、そのうち主家を訪ねて弁明をすることを約束した。
ホテルでは、愕き顔に帆村を迎えた。
なにしろ朝方ドテラ姿でブラリと散歩に出かけたこの客人が、昼食にも晩餐にも顔を見せず、夜更けて、しかも見違えるように憔悴して帰ってきたのだから。
「えろうごゆっくりでしたな、お案じ申しとりました。へへへ」
「いや、全く思わないところまで遠っ走りしたものでネ、なにしろ知合いに会ったものだから」
「はアはア、そうでっか、お惚《のろ》け筋で、へへへ、どちらまで行きはりました」
「ウフン。大分遠方だ。……部屋の鍵を呉れたまえ」
「はア、こ
前へ
次へ
全254ページ中131ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング