して拾ったのである。彼がその棒について、もっと深い興味をもっていたとすれば、それだけでも蠅男の正体を掴む余程の近道とはなったであろうに、流石《さすが》の帆村探偵も早くいえば蠅男をそれほどの怪人物だとは思っていなかったせいであろう。
なにもそれは帆村探偵だけのことではない。世間では誰一人として、蠅男が過去にも未来にも絶するそのような奇々怪々なる人間だとは、気がついていなかったのだ。蠅男こそは有史以来二人とない怪人だったのである。さて、いかなる怪人であったろうか。それを知るのは、極《ご》く小数の人々だけだった。しかも彼等は蠅男の正体を語るを好まないか、またはそれを語ることができない事情の下にあった。
だから目下のところ読者諸君はやむなく、村松検事以下の検察当局の活動と、青年探偵帆村荘六の闘志とに待つよりほかに蠅男の正体を知る手がないのである。
鬼か人か、神か獣か?
蠅男の正体が、白日下に曝《さら》されるのは何時の日であろうか。
意外なる邂逅
有馬温泉の駐在所における何時聞かの前後不覚の睡眠に帆村もすこしく元気を回復したようであった。
彼はそれから先の行動を、あれや
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