ちゅうのや」
 帆村は五十銭玉を掌の上にのせてみせた。かの男は、たちまち恵比寿顔《えびすがお》になって、いやに帆村の機嫌をとりだした。
「ふーン、わしに委《まか》しといたらええねン。大丈夫やがナ。親分の名は藤三《とうぞう》いうのや。紹介したる、さあ一緒についてこい」
 楢平《ならへい》という男の案内で、帆村は藤三親分の配下に臨時に加えて貰うことになった。
 彼はここでも、いささか金を親分に献上することを忘れなかった。
「あんまりパッパッと金を使うのはあかんぜ」
 と、早速《さっそく》親分らしい注意をした。
「へえ、相済みませんです」
 それから藤三親分は、帆村にいろいろと仲間の習慣の話や、縄ばりのこと、持ち場などについて、こまごました注意を与えたのち、
「さあ、これは今夜の、わしからの引出物や。これを一枚、お前にやる」
 と云って、一枚の紙札をくれた。
 帆村が何だろうと思ってみると、それは新別府温泉プールと書いた一枚の入浴券であった。
「へえ、どうもこれは、――」
「今夜入ってきたらええやないか。そこは十日ほど前に建った大浴場兼娯楽場や。もちろんぬかりはあらへんやろが、わし等の行く時間は、午後十二時を廻ってからでやぜ。忘れんようにな。楢平にも、これを一枚やる」
 親分は二枚の入浴券を下された。
 帆村にとっては、甚《はなは》だ迷惑なことであった。そんなことよりも、早く蠅男の所在を探したいのだった。だが親分さまからの折角の下され物である。行かねば、後の祟《たた》りの恐ろしさも考えねばならない。やむなく帆村は、その新別府温泉プールなるものに、楢平とともにでかける決心をした。
 だが、まさか其処《そこ》に、たいへんなものが待ち構えていようとは、ついぞ気がつかなかったのである。


   砂風呂の異変


 楢平と帆村とは、恐《おそ》る恐《おそ》るその新別府温泉プールの入口へ切符を出してみた。
 プールでは、なんと思ったか、たいへん鄭重《ていちょう》に二人の入来を感謝してくれた。それも一に藤三親分の偉力《いりょく》のせいであろうと思われた。
 裸になって浴場へ足を入れてみると、なるほどこれは、入浴ずきの大阪人でなければ、ちょっと出来そうもない広大なる共同浴場であった。その中央に、大理石で張りめぐらされた直径十メートルの円形のプールが作ってあった。そのまわりも広い大理石の洗
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