長さん、もう遅いですよ。いまごろ蠅男は、どっかその辺の屋上に逃げついて、そこからこっちの窓を見てニヤッと笑っているでしょう」
「そうか、残念やなア」
蠅男が近所に潜《ひそ》むという帆村の推理に、村松検事も賛成の意を表した。
それではというので、すぐさま捜査隊が編成せられて、一行は直ちに鴨下ドクトル邸に向った。
厳重な捜査の結果、帆村の云ったとおり、はたして秘密倉庫が地下に発見せられた。それは、勝手許の食器棚のうしろに作られていたもので、ボタン一つで、自由にあけたてできるようになっていた。
一行は、いまさらのように愕いたが、中に入ってみて二度びっくりした。倉庫の中には、まだ五つ六つの爆弾やら、蠅男が使ったらしい工具や材料が一杯入っていた。
「さあ、そういうことになると、蠅男はどないして、ここへ出入したんやろ。そいつを調べなあかん」
正木署長は俄《にわ》かに奮《ふる》いたって、取調べを始めた。カオルも山治も、蠅男らしい人物がこの家に出入していない旨を誓った。
警戒中の警官も、同じことを証言した。
お手伝いさんが一人と、派出婦が一人といるが、お手伝いさんも知らぬと答えた。このお手伝いさんは城の崎の在から来ている人で、先日まで近所の下宿で働いていた身許確実な女だと知れた。
派出婦は、生憎《あいにく》外出していた。これは身許もハッキリしていなかった。年齢の頃は二十三、四。名前は田鶴子《たずこ》といった。顔は丸顔だという。
「田鶴子――というんだネ」
この田鶴子なる派出婦は、一行が到着する直前、ちょっと薬屋に買物にゆくといって出ていったそうだが、それがなかなか帰って来なかった。そこで警官の一人を、その薬局へ派遣して調べさせることにした。
間もなくその警官が帰ってきて、
「近所の薬屋を四、五件調べてみましたんやけれど、どの家でも、そんな女子は来まへんという返事だす。けったいなことですなア」
帆村はそれを聞くと、ポンと膝を叩いた。
「呀《あ》ッ。わかりましたよ。その田鶴子という派出婦は、もう二度とこの家にかえってきませんよ」
「なぜだい」検事が聞いた。
「いや、その田鶴子という派出婦は、蠅男の情婦のお竜《りゅう》が化けこんでいたに違いありません。蠅男では、到底《とうてい》入りこめないから、そこでお竜が化けこんで、秘密倉庫のなかのものを持ち出していたんです。丸顔
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