ていないそうである――帆村は卓子《テーブル》の上から一本の紙巻煙草をとってそれを口に啣《くわ》えた。
「喫茶店ギロンでね、僕は恰好の団員が張りこんでいるのを、いち早く見つけてしまったのだよ。それはちょっと見るとダンサーのような洋装の少女だった。年齢の頃は二十二三と見たが、いい体をしているのだ。胸の膨《ふく》らみだの、腰のあたりの曲線などが、男を引きつけずには居ないという悩ましい女さ。しかし器量の方はあまり美しいとは云えない。むしろ身嗜《みだしな》みで不器量をカムフラージュしているという方だ。僕はその女を認めると、つかつかと傍によって、ちょっとサインをした。これは相手の身体にぴったり寄り添ってする暁団一流のサインなのだ。君は嘸《さぞ》知りたいだろうが、遺憾ながらこいつばかりは教えられないよ、ふふふふ。……すると果して反応があった。女はポケットから手を出して、僕の掌《て》の中に入れた。なにか西洋紙のようなものが当る。それを女は渡そうとしたのだ……」
帆村はそこで急に黙ってしまった。コトコトと部屋を一周したけれど、まだ黙っているのであった。
「それからどうしたんだい?」と私は不満そうに話の
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