、日附を示しているのだ。これは所謂六桁数字式の日附法といって、ちかごろ科学者の間に流行っているものだ。そして注意しなければいけないことは、昭和十年四月二十何日というと、今日は五月一日だから、いまから三日乃至十一日前だということだ。極めて新しい日附が記されているところが重大なのだ」
 私は久振りに聞く友人の能弁に、ただ黙って肯《うなず》くより外なかった。
「もう一つの字句『奇蹟的幸運により』は一見平凡な文字だ」と帆村は続けた。「しかし僕は、この一見平凡な字句の裏に籠《こも》っている物凄い大緊張を感得せずにはいられない。すなわち単なる幸運ではない、九十九パーセント或いはそれ以上に不可能だと思われていた或る事[#「或る事」に傍点]が、実に際どいところで見事に達成されたのだ。この字句の中には、爆薬が破裂するその一週間前に導火線をもみ消すことができたとでもいうか、遂に開かないと思った落下傘が僅か地上百メートルで開いたとでもいうか、とにかく大困難を一瞬間に征服したというような凱歌《がいか》が籠っている。正に奇想天外の一大事件がもちあがったのだ。それは如何なる大事件であろうか? ところがその後が難解
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