のが、三十一日の朝だった。そこで彼はそれを映写機にかけて、台本と較べながら、音画校正をやったのであった。ところが例の「カフェの送り出し」のところで、玲子の云う台辞《せりふ》がまるで違っている個所があった。そこで彼は台本の上に赤い傍線をつけると共に、「カフェの送り出し」の一節のフィルムを別にして、監督へ報告の手続をして置いた。
 監督は電話をかけてきて、(その場面は、物語の筋と直接関係のない個所だから、その儘で差支えない)と返事してきた。そしてフィルムは、あとで給仕が持って来たのであった。監督はそれでいいとして、尚も旅行中の脚本係長に相談するつもりで、その儘別にしてあったところ、今朝気がついて見ると、あのようにフィルムの一節が切り取られてあった。
「私の合点がゆかないことはですね」と木戸は言葉尻に力を入て、「不思議にもフィルムの切取られた箇所と、台辞の間違っている箇所が一致しているのです。偶然の暗合にしてはあまりに合いすぎるので、これは誰かの故意の切取りと見ました。監督にも云って置きましたから、今日は後ほど、台辞の当人である三原玲子氏にも訊いてみることになっています……如何です、不思議で
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