って、葉桜が涼しい蔭を堤の上に落していた。そうだ、きょうからもう五月に入ったのだ。
帆村を案内しようという東京キネマの撮影所は、ちかごろトーキー用の防音大スタディオを建設したが、それが堤の上からよく見えた。
門を入ると、馴染《なじみ》の門衛が、俄《にわ》かに笑顔を作りながら出て来た。
「お連れさんは?」
「これは俺の大の親友だ。帆村という……」
「よろしゅうございます。……ところで貴方に御注意しときますがな、どうも余り深入りするとよくありませんぜ」
と門衛は改まった顔で意味深長なことをいった。
「なんだい、深入りなんて?」
「……」彼はこれでも判らないかというような顔をしたのち「あれですよ、三原玲子さんのことです。貴方の御贔屓《ごひいき》の……」
「これこれ」
私は帆村の方をちらと見たが、彼はスタディオの巨大なる建物に見惚《みと》れているようであった。
「三原玲子がどうかしたかい」
「この間、刑事がここへずかずかと入ってきましてね。あの娘を裸にして調べていったのですよ」
「そりゃ越権だナ。裸にするなんて……」
「尤も是非署へ引張ってゆくといったんですが、所長が今離せないからと頼
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