ては、まるで事件を説明してやるために君を引張りあげたようなものじゃないか」
と帆村は皮肉《ひにく》を云ったが、でも私が入ってきたときよりもずっと朗かさを加えたのだった。彼は今、話し相手が欲しくてたまらないのだ。
「これは或る密書の一部分なんだよ」と帆村は遠いところを見つめるような眼をして云った。
「そこには、たった三つの違った字句しか発見できない。昨夜一と晩考えつづけて、はじめの二つの字句は、まず意味を察することができたのだ」
密書を解いたと聞くと、私は急に興味を覚えた。
「まず数字の0042だが、これをよく見ると、この四桁の数字の前後が切れているところから見てまだ前後に他の数字があるかも知れないと想像できるのだ。僕は大胆にこれを解《と》いた。これは昭和十年四月二十何日という日附なのだ。この日附を横に書いてみると判る。1042X――ところで月は十二月という二桁の月もあるから、桁数を合わせるためには四月を唯《ただ》4だけではなく、04と書かねばならない。そうして置いて年月日の数字を間隔なしに詰めると10042Xとなる。だからこの紙片には、初めの1が抜け、最後の疑問数字Xが抜けているが、日附を示しているのだ。これは所謂六桁数字式の日附法といって、ちかごろ科学者の間に流行っているものだ。そして注意しなければいけないことは、昭和十年四月二十何日というと、今日は五月一日だから、いまから三日乃至十一日前だということだ。極めて新しい日附が記されているところが重大なのだ」
私は久振りに聞く友人の能弁に、ただ黙って肯《うなず》くより外なかった。
「もう一つの字句『奇蹟的幸運により』は一見平凡な文字だ」と帆村は続けた。「しかし僕は、この一見平凡な字句の裏に籠《こも》っている物凄い大緊張を感得せずにはいられない。すなわち単なる幸運ではない、九十九パーセント或いはそれ以上に不可能だと思われていた或る事[#「或る事」に傍点]が、実に際どいところで見事に達成されたのだ。この字句の中には、爆薬が破裂するその一週間前に導火線をもみ消すことができたとでもいうか、遂に開かないと思った落下傘が僅か地上百メートルで開いたとでもいうか、とにかく大困難を一瞬間に征服したというような凱歌《がいか》が籠っている。正に奇想天外の一大事件がもちあがったのだ。それは如何なる大事件であろうか? ところがその後が難解
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