みこんだのです。その代り、桐花カスミさんなどの女連が立ち合って裸の検査ですよ」
「ど、何うしたというんだ」
「よくは判りませんが、何か探すものがあったらしいのですよ。でも、まア三原さんの体からは発見されないで済んだようですが外に二人ほど男優とライト係とが拘引《こういん》されちまって、まだ帰ってこないのです。とにかくあっし[#「あっし」に傍点]は三原玲子さんばかりはお止しなさいと云いますよ」
「変なことを[#「変なことを」は底本では「辺なことを」]云うなよ、はっはっはっ」
 私は帆村の待っている方へ行って、彼を撮影場の方へ誘った。
「いまの三原レイ子とかいうのは、何うしたのだ」帆村はもうちゃんと聞いていた。
 私はすっかり照《て》れてしまった。が、隠してももう隠しきれないと思ったので、彼に一と通り説明をした――三原玲子というのは、この東キネの幹部女優桐花カスミの弟子に当る新進のインテリ女優だった、彼女は私と一緒にL大学の理科の聴講生だったことがあって、それで旧知の仲だった。その玲子はあまり美人とは云えない方で、スクリーンに出ることはまず稀で、もっぱら桐花カスミの身の周りの世話をして重宝がられていた。蒼蠅《うるさ》い世間は、玲子の殊遇《しゅぐう》が桐花カスミとの同性愛によるものだろうと、噂していたが、それは嘘に違いない。……私の知っていることはそれだけだというと、帆村はひとの顔を穴の明くほど見詰めて、やがてにやりと嗤《わら》った……。
 厳重ないくつかの関所を通って、私達は漸くトーキースタディオに入ることができた。中へ入ると、一切の騒音は、厚いフェルトの壁に吸いとられて、耳ががあんとなったような感じがした。声を出してみると、ばさばさという音しか出ず、変な工合だった。ホールの真中には、銀座の四つ角のセットが立っていて、その前で現代劇の撮影が始まっていた。大勢の男女優が、いろいろの服装をして、シャツ一枚の撮影監督の指揮に従って、あっちへ行ったり、こっちへ来たりしていた。――虫籠のようなマイクロホンが、まるで深淵《しんえん》に釣を垂れているように、あっちに一つ、こっちに一つとぶら下っている。
「見給え、あれが桐花カスミだ」
 と私は帆村に主役の女優を教えた。
 帆村は一向気がないような顔をして、トーキー撮影場の天井ばかり見上げていた。
「それからついでに紹介するが、あすこでル
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