不安なのでございます。万一父が危害《きがい》を加えられてでもいるようですと、一刻《いっこく》も早く見付けて助け出したいのでございます。それで母と相談をして、お力を拝借《はいしゃく》に上《あが》ったわけなのでございます。どう思召《おぼしめ》しましょうか、父の生死《せいし》のほどは」
 トシ子嬢は語り終ると、ほんのり紅潮《こうちょう》した顔をあげて、帆村の判定を待った。
「さあ――」と帆村は癖で右手で長くもない顎《あご》の先をつまんだ。「どうもそれだけでは、河内園長の生死《しょうし》について判断はいたしかねますが、お望みとあらば、もう少し貴女《あなた》様からも伺《うかが》い、その上で他の方面も調べて見たいと思います」
「お引受け下すって、どうも有難とう存じます」トシ子嬢はホッと溜息《ためいき》をついた。「何なりとお尋《たず》ねくださいまし」
「動物園では大いに騒いで探したようですか」
「それはもう丁寧《ていねい》に探して下すったそうでございます。今朝、園にゆきまして、副園長の西郷さんにお目に懸《かか》りましたときのお話でも、念のためと云うので行方不明になった三十日の閉門《へいもん》後、手分
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