なくなった。帆村は勢い率直な質問をこの男に向ってする勇気を得たのだった。
「北外さん、私は園長の身体が、この調餌室《ちょうじしつ》か、それとも隣りの爬虫館かで、料理されちまったように思うのですがね」
「はァはァ」北外は小さい口を勢一杯《せいいっぱい》に開けて、わざとらしく駭《おどろ》いた。「いやそれは大発見ですな」
「貴方は園長が失踪された朝の、十一時二十分頃から正午《ひる》まで何処に居られましたか」
「僕が有力なる容疑者というお見立ですな」北外はニヤリと笑った。「さてお尋《たず》ねの時間に於《おい》ては、この室内に僕一人が残っていた――とこう申上げると、貴方は喜ばれるのでしょうが、実はその時間フルに、一族郎党《いちぞくろうとう》ここに控《ひか》えていたんです。それというのが、十一時四十分頃に、けだもの[#「けだもの」に傍点]の弁当の材料が届くことになっていまして、室からズラかることが出来ないのです」
「それでは其の時間前後は、何をしておいででした?」
「先《ま》ず時間前は、当日も六人の畜養員が、庖丁《ほうちょう》を研《と》いだり、籠を明けたり、これでなかなか忙しく立ち働きました。その
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