、反対に爬虫館から調餌室へと考えられる。そこで帆村は、爬虫館の鴨田研究員が十一時三十五分前後に、調餌室の前へトラックが到着して動物の餌を搬びこんでいるらしい騒ぎを聴いたということを思い出した。すると犯行は、この前か後か。――帆村は調餌室の内部にも多分の疑問|符号《ふごう》が秘められていることも考えないわけにはゆかなかった。
西郷理学士と一緒に調餌室に入ってみると、帆村は思わず「呀《あ》ッ」と叫びたいくらいだった。塀の外で調餌室を想像しているのと、こうやって大きな俎上《そじょう》に、血のタラタラ滲《にじ》みでそうな馬肉《ばにく》の塊《かたまり》を見るのとでは、まるっきり調餌室というものの実感が違った。壁には、象を料理するのじゃないかと思うほどの大鉞《おおまさかり》や大鋸《おおのこぎり》、さては小さい青竜刀《せいりゅうとう》ほどもある肉切庖丁《にくきりほうちょう》などが、燦爛《さんらん》たる光輝《ひかり》を放って掛っていた。倉庫には竪《たて》半分に立ち割った馬の裸身《はだかみ》や、ダラリと長い耳を下げた兎《うさぎ》の籠《かご》などが目についた。
この物凄い光景を見た瞬間、帆村の頭脳《あ
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