他の縦半分《たてはんぶん》には頑丈な檻があって、その中に見るも恐ろしい大ニシキヘビが七頭、死んだようになって勝手な場所を占領していた。帆村は檻に掴《つか》まると、端《はし》の蟒から一頭一頭、腹の大きさを見ていった。しかしどうやらどの蛇も思いあたるような大きな腹をしたのは居なかった。しかしバラバラの死体を呑んだとして、犯行が三十日の正午《ひる》近くと仮定し今日は二日の午後であるから二日過ぎとすると、この間に蟒の腹は目立たぬ程に小さくなったのではあるまいか。
「鴨田さん」帆村は背後を振返《ふりかえ》った。「ニシキヘビには山羊《やぎ》を喰べさせるそうですが、何日位で消化しますか」
「そうですね」鴨田は揉《も》み手《で》をしながら実直《じっちょく》そうな顔を出した。「六貫位はある山羊を呑んだとしまして、先ず三日でしょうか」
それなれば十二三貫ある園長を八つか九つの切れにして、九頭の蟒に与えるなら、いままでまる二日は過ぎたから、もう程よく溶《と》けたころに違いない。しかし一体誰が殺したか、誰が死体をバラバラにし、誰が蟒に与えたか。それは一向にハッキリ判っていなかったが、この生白《なまじろ》い鴨田研究員の関係していることは否《いな》めなかった。
「ああ、西郷君」そう云ったのは鴨田理学士だった。「一昨日この爬虫館の前で拾得《しゅうとく》したので僕が事務所へ届けて置いた万年筆ね、あれは先刻警官の方が調べられて、園長さんのものだと判ったそうですよ」
「ああ、そう」西郷副園長は簡単に応《こた》えたが、其の後でチラリと帆村の方に素早《すばや》い視線を送った。
帆村は知らぬ風をして、この会話の底に流れる秘密について考えた。館の前で園長の持ち物を拾ったということは、場合によっては決して鴨田氏の利益ではなかった。万年筆はよく落すものではあるが、そんなに具合よく館の入口に落すものではない。また物静かな園長が落すというのも可怪《おか》しい。鴨田が後に怪《あやし》まれることを勘定《かんじょう》に入れて落して行ったか、さもなくて鴨田が自《みずか》ら落ちていたと偽《いつわ》り届けたものか、どっちかである。始めのようだと鴨田を陥《おとしい》れようとしているのは誰かという問題となり、後のようだと鴨田は自ら嫌疑《けんぎ》をうけようとするもので、そこには容易ならぬ犯罪性を発見することになって、帆村は鴨田の
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