くれれば、外に云うことはないわ。……縁起直《えんぎなお》しに、いま古い葡萄酒でも持ってくるわ」
 あたしたちは、それから口あたりのいい洋酒の盃を重ねていった。お酒の力が、一切の暗い気持を追払《おいはら》ってくれた。全く有難いと思った。――そしてまだ宵《よい》のうちだったけれど、あたしたちはカーテンを下ろして、寝ることにした。
 その夜は、すっかり熟睡した。松永が帰って来た安心と、連日の疲労とが、お酒の力で和《やわら》かに溶け合い、あたしを泥のように熟睡させたのだった。……
 ――翌朝、気のついたときは、もうすっかり明け放たれていた。よく睡ったものだ。あたしは全身的に、元気を恢復した。
「オヤ、――」
 隣に並んで寝ていたと思った松永の姿が、ベッドの上にも、それから室内にも見えない。
 庭でも散歩しているのじゃないかと思って、暫く待っていたけれど、一向彼の跫音《あしおと》はしなかった。
「もう出掛けたのかしら……」今日は休むといっていたのに、と思いながら卓子《テーブル》の上を見ると、そこに見慣れない四角い封筒が載っているのを発見した。あたしはハッと胸を衝《つ》かれたように感じた。
 しか
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