を覘《ねら》う。慾望の無くなることは無い。科学はオール・マイティーにして、同時にオール・マイティーではない。もっと明瞭《めいりょう》に云うと、科学はレラティヴリーにオール・マイティーであるが、アブソリュートリーにオール・マイティーではない。初等数学で現わすと、『オールマイティーじゃ』と云って誤りでない」
「どうも、あたしには哲学が判りませんのよ」
「高等数学だから判らんのじゃよ」
「そんなことより、遊星植民の実際はどうするんです?」
「いろんな方法があって、一々|述《の》べきれないが、素人《しろうと》に判りよい方法を三つ四つ、数えてみよう。まずお月様を征服することじゃ」
「まア!」
「ロケットという砲弾みたいな形の、箆棒《べらぼう》に速い航空機に、テレヴィジョン送影装置《そうえいそうち》を積んで月の周囲を盛んに飛行させ、月の表面の様子を地球の上のテレヴィジョン受影機にうつして、地理を研究する。これは月以外の、どの遊星へ植民するときも同じ手じゃ」
「偵察飛行みたいだワ」
「そうして、上陸地点を決定し、又上陸後はどのような方法で、地球の人間が衣食住をすべきかを計画する。計画が出来たら、地球の上から、人間がロケットに乗って飛び出し、兼《か》ねて探して置いた地点に上陸する」
「随分日数がかかるでしょうネ」
「まア一週間で行けるようになる」
「それからどうなりますの」
「第一に大切なことは、エネルギーを得ることだ。これは太陽から来る輻射熱《ふくしゃねつ》を掴《つか》まえて、発電所を作る。そのエネルギーで、温めたり、明るくしたり、物を製造したりする。段々と品物は大きくなり、軈《やが》て月世界は、この大発電所だらけになって、温かくなり、水蒸気も水も出来、空気も地表に漂《ただよ》いはじめるだろうし、果《は》ては地球と全く同じ状態になる」
「なるほど、うまく行きそうですのネ」
「地球が古くなると、もっと太陽に近い他の遊星、たとえば金星などへ移住を開始する。場合によると、この地球も、金星のそばへ、一緒に持っていってもいい」
「そんなことが出来ますの」
「出来るとも、引力打消器《いんりょくうちけしき》を完成すればよい。ピエゾ水晶板《すいしょうばん》を使って、これの小さいのが出来る今日だから、明日にも大きいのが出来て、地球自由航路が開けるかも知れない」
「地球自由航路て、なんですの」
「地球自由航路というのは、地球が同じオービットに従って太陽の周囲を公転しなくてもいいことになるのだ。地球は宇宙のうちならどこへでも、恰度《ちょうど》円タクを操《あやつ》るように、思うところへ動いてゆけるようになるだろう」
「まア!」
「その途中で、地球に愛想《あいそ》をつかした奴は、近づく他の遊星へ、どんどん移住してゆく」
「他の遊星に、また人間がいて、喰《く》いつきやしませんか」
「一応それは心配だ。だが吾輩《わがはい》の説によると、まず大丈夫と思う。第一に、地球へ他の遊星から来る電磁波《でんじは》を、十年この方、世界の学者が研究しているが、その中には符号《ふごう》らしいものが一つも発見せられない。これは地球がどこからも呼びかけられていない証明になる。然《しか》るに、わが地球からは、今日既にヘビサイド・ケネリーの電離層を透過《とうか》して、宇宙の奥深く撒《ま》きちらしている符号は日々非常に多い、短波の或るもの、それから超短波、極超短波の通信は地球内を目的としているが、地球外へも洩《も》れている。これから考えても、地球の人類が、一番高等な生物だということが判る」
「あたしにも判りますワ」
「第二は地球の人類が他の遊星の生物から攻められたことがない点だ。人間の頭は今日、もし他の遊星へ行くんだったら、その生物を殺すつもりでいる。だのに、地球の人間の方は、まだ他の遊星から攻《せ》められたことがない。これから見ても、この宇宙には、われわれ人間以上に発達した生物がいないことが知れる。人間は、広い意味に於《お》いて万物《ばんぶつ》の霊長《れいちょう》だと云えるのじゃ」
「まア、博士は、なんて豪《えら》い方《かた》なんでしょ」
「よいかな、お嬢さん。いまは大丈夫だ。しかし今から二万年位経ったあとでは、果して人間が宇宙に於てお職《しょく》を張《は》りとおすかどうかは疑問なのじゃ。そのころには、優秀な生物がどこかの遊星の上に出来て、本格的に地球征服を実行するかも知れない」
「困ったわネ」
「そうなれば、世界戦争なんてなくなるだろう。何しろ、他の遊星からの攻撃を撃退しなければならなくなるのでね。だから、人類は今からよろしく、有望な他の遊星へ植民しておくのがよい。そしてイザというときには、便利な空間から敵を撃退する。とにかく大宇宙が人間の手で公園のようになるのは、案外速いよ。二十万年も経てば
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