球自由航路というのは、地球が同じオービットに従って太陽の周囲を公転しなくてもいいことになるのだ。地球は宇宙のうちならどこへでも、恰度《ちょうど》円タクを操《あやつ》るように、思うところへ動いてゆけるようになるだろう」
「まア!」
「その途中で、地球に愛想《あいそ》をつかした奴は、近づく他の遊星へ、どんどん移住してゆく」
「他の遊星に、また人間がいて、喰《く》いつきやしませんか」
「一応それは心配だ。だが吾輩《わがはい》の説によると、まず大丈夫と思う。第一に、地球へ他の遊星から来る電磁波《でんじは》を、十年この方、世界の学者が研究しているが、その中には符号《ふごう》らしいものが一つも発見せられない。これは地球がどこからも呼びかけられていない証明になる。然《しか》るに、わが地球からは、今日既にヘビサイド・ケネリーの電離層を透過《とうか》して、宇宙の奥深く撒《ま》きちらしている符号は日々非常に多い、短波の或るもの、それから超短波、極超短波の通信は地球内を目的としているが、地球外へも洩《も》れている。これから考えても、地球の人類が、一番高等な生物だということが判る」
「あたしにも判りますワ」
「第二は地球の人類が他の遊星の生物から攻められたことがない点だ。人間の頭は今日、もし他の遊星へ行くんだったら、その生物を殺すつもりでいる。だのに、地球の人間の方は、まだ他の遊星から攻《せ》められたことがない。これから見ても、この宇宙には、われわれ人間以上に発達した生物がいないことが知れる。人間は、広い意味に於《お》いて万物《ばんぶつ》の霊長《れいちょう》だと云えるのじゃ」
「まア、博士は、なんて豪《えら》い方《かた》なんでしょ」
「よいかな、お嬢さん。いまは大丈夫だ。しかし今から二万年位経ったあとでは、果して人間が宇宙に於てお職《しょく》を張《は》りとおすかどうかは疑問なのじゃ。そのころには、優秀な生物がどこかの遊星の上に出来て、本格的に地球征服を実行するかも知れない」
「困ったわネ」
「そうなれば、世界戦争なんてなくなるだろう。何しろ、他の遊星からの攻撃を撃退しなければならなくなるのでね。だから、人類は今からよろしく、有望な他の遊星へ植民しておくのがよい。そしてイザというときには、便利な空間から敵を撃退する。とにかく大宇宙が人間の手で公園のようになるのは、案外速いよ。二十万年も経てば
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