カンカンと、ノックの音。
「ゴーゴンゾラ博士!」
「……」
「ゴーゴンゾラ博士ったらサ! ご返辞《へんじ》なさらないと、ペンチで高圧電源線《こうあつでんげんせん》を切断《き》ってしまいますよ、アリャ、リャ、リャ、リャ……」
「これ、乱暴なことをするのは、何処《どこ》の何奴《どいつ》じゃ」
「博士ね、ここに紹介状を持って参りましたワ」
「おお、なんと貴女《あなた》は、美女であることよ! 紹介状なんか見なくとも宜《よろ》しい。さあ、早く入った、入った」
「オヤオヤ、あたしのイットが、それほど偉大なる攻撃力があるとは、今の今まで知らなかった。では、御免《ごめん》遊ばせ。まア博士《せんせい》の研究室の此の異様《いよう》なる感覚は、どうでしょう! まるでユークリッドの立体幾何室を培養《ばいよう》し、それにクロム鍍金《めっき》を被せたようですワ。博士《せんせい》、宇宙はユークリッドで解《と》けると御考えですか」
「近ければ解け、遠ければ解けぬサ」
「博士《せんせい》の御近業《ごきんぎょう》は、一体どのくらい遠くまでを、問題になさっています」
「近業とは?」
「判っているじゃありませんの。謂《い》うだけ野暮《やぼ》の『遊星植民説《ゆうせいしょくみんせつ》』!」
「ははア、そんなことで来なすったか。だが遊星植民には、欠《か》くべからざる必要条件が一つあるのを御存じかな」
「存じませんワ、博士。それは、どんなことですの」
「いや、段々と判《わか》って来ることじゃろう」
「それでは、そのことは後廻《あとまわ》しとして、博士。遊星植民説の生れた理由は?」
「とかく浮世《うきよ》は狭いもの――ソレじゃ」
「満洲国があっても、狭いと仰有《おっしゃ》るの」
「人間の数が殖《ふ》えて、この地球の上には載《の》りきらないのも一つじゃ。だが、それだけではない。人間の漂泊性《ひょうはくせい》じゃ。人間の猟奇趣味《りょうきしゅみ》じゃ。満員電車を止《や》めて二三台あとの空《す》いた車に載《の》りたいと思う心じゃ。わかるかな。それが人間を、地球以外の遊星へ植民を計画させる」
「まア。必要よりも慾望で、遊星植民が行われると、おっしゃるのネ」
「そうじゃ。能力さえあるなら、人間はどんな慾望でも遂《と》げたい。すべての達せられる程度の慾望が達せられると、この上は能力をまず開拓して、それによって次なる新しい慾望
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