は檻を破って一しょにあばれだしたのです。全く手がつけられなくなりました。殊に、猛獣対人間の最初の戦闘において、かなり腕ぷしのつよい連中がやられ、高級船員も相当たおれ、それからボートを出して船を捨てて逃げだすなど、たいへんなさわぎになったそうです。しかも運わるく、そこへ台風がやってくるし、さんざんの目にあって、ついにこの汽船の中には、機関室に閉《と》じこもった少数の乗組員の外には、誰もいなくなったのです」
「なるほど、そうかね。聞けば聞くほど、たいへんな事情だなあ」
「ボルク号の船員をいたわっているところへ、どこからはいこんできたのか、矢島がはじめに、機関室へ辿《たど》りつき、ついで、川崎と藤原とが一緒に、とびこんできました。そして機関室には、にわかに人が殖えたのです。それだけに、食うものに困ってしまいました」
「そうであろう」と船長は、同情の眼で、丸尾たちを見まもって、
「ところで、あのSOSの筏《いかだ》は、何者が仕掛けたのかね。あの黒いリボンのついた花環をつけて筏にのって流れていた無電機のことさ」
「ああ、あれですか。あれは、どうもよくわからないのです」
と、丸尾は、首をふった。
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