《おちい》って、猛獣に喰われて白骨になるではないか。撃つのはしばらく待て!」
 猛獣は、ものすごい声をあげて咆哮《ほうこう》する。どれもこれも、腹がへっているらしい。この咆哮につれて、檣の下には刻々と猛獣の数が殖《ふ》えてゆく。(ふーん、一体この船には何十頭の猛獣がいるのかしら)と貝谷が、溜息とともに呟いた。檣の下には、今や少くとも九頭か十頭のライオンと豹《ひょう》が集っている。和島丸の船員たちは、檣の上にしがみついたまま生きた色もない。
 貝谷は、積みあげたロップの蔭から、猛獣の動静をじっと見守っている。
 その後で、古谷局長は、しきりに智慧をしぼっていたようであったが、「そうだ、いいことがある!」と叫んで、貝谷の肩を叩いた。
「とにかく、このままでは、猛獣の餌食《えじき》になるばかりだ。おい、貝谷。おれはこれから、船内へ入って、銃かピストルかを探《さが》してくるから、お前はここで頑張っていてくれ」
「なんですって、局長。あなたひとりで船内へ入っては危い!」
「だが、こうなっては、自分の身の危険など考えてはいられない。隊員全体の生命が危いのだから……。後を頼むぞ」というや、局長は走り去った。
 それからのち、僅か二十分ぐらいの間のことだったが、貝谷は、二日三日もたったように思った。ところが、正味二十分たって、局長は息せききって、貝谷の待っているところへかえってきた。
「あっ、局長。どうでした」貝谷は、あいかわらず、猛獣への監視をおこたらず、その方へ顔をむけたままの姿勢でたずねた。
「うむ、あったぞ。このとおりだ」局長は、うれしそうに、貝谷の鼻のさきへ、三挺のピストルと二挺の銃とをさしだした。
「まだ銃はある。弾丸もうんとある。さあこれで、あの猛獣どもを追っ払うのだ」
 局長は、さっきとは別人のように元気になっていた。
 そこで局長と貝谷とは、一、二、三の号令とともに、積みあげたロップに銃をのせて、勢いよく撃ちだした。だだーん、どどーん。ものすごい銃声だ。そしてたいへんいい当りだ。そうでもあろう。相手は大勢、当らないのがおかしいくらいだ。


   船内|捜査《そうさ》


 こうして、四五頭のライオンと豹とが、またたく間に、斃《たお》されてしまった。残りの猛獣は、びっくりして、その場をにげだして、向うへいってしまった。それを見すまして、檣《マスト》のうえに避難して
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