局長、人骨だけ残っていて、満足な人体が残っていないのはどういうわけですかな」
そういっているうちに、二人は船橋へ通ずる階段のところへ出た。そのとき下の船艙《せんそう》から、なにかことんと物音がしたのを、二人は同時に聞きとがめた。その妙な物音は、ずっと下の船艙からきこえる。二人はその物音を追ってついに二番船艙の底まではいりこんだ。あたりは電灯も消えて真暗であった。が、どこからともなく吹いてくる血なまぐさい風!
「あっ、あんなところに、なにかキラキラ光っているものがある!」
と、貝谷が局長の腕をぐっと引寄せた。
解けた怪異《かいい》
幽霊船の中に潜んでいた謎は、一体なんであったろうか。船艙のくらがりの中から聞えるごとごとという怪音、それにつづいてキラキラと光った物!
銃をもった貝谷は、隊長古谷局長の腕をとらえ、
「局長、あれをごらんなさい。光る物は二つならんでいます。あれは動物の眼ですよ」
「どこだい。よく見えないが……」
といっているとき、うおーっという呻《うな》りごえ。
「局長、一発撃たせてください。そうしないと、こっちがやられてしまいます」
「じゃあ、……」
局長の言葉半ばにして、だーんと銃声がひびいた。貝谷がとうとう狙いをさだめて撃ったのである。闇の中に、たしかに手応《てごた》えがあった。それっきり呻《うな》り声はしなくなった。
「どうしたんだろうなあ、貝谷」
「局長。うまく仕とめたんです。そばへいってみましょう」
局長と貝谷とは残りすくない貴重なマッチをすって、そばに近づいた。そこには大きな愕きが、二人を待っていた。
「あっ、豹《ひょう》だ! 黒豹が死んでいる!」
船艙の隅に、小牛ほどもあろうという大きな黒豹が、見事に額を撃ちぬかれて、ぐたりと長くのびていた。
「ああ、もうすこしで、こいつに喰われてしまうところだった」
「貝谷。お前の腕前には、感心したよ。いや、感心したばかりではない。危いところで生命を助けてもらったことを感謝するぞ。だが――」
と、いって、局長は大きな呼吸をして、
「おい貝谷。これで幽霊船の秘密が解けたではないか」
「えっ、幽霊船の秘密だといいますと……」
「ほら、甲板だの船橋《ブリッジ》だのに、人骨がちらばっていたことさ。つまりこの幽霊船には、檻《おり》を破った猛獣が暴れていたんだ。そして船員を片っ端から喰い
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