「えっ、この人を――この遺骸をお貸し下さるとは……」
 と、治明博士は、問いかえした。
「今、ロザレの霊魂《れいこん》は他出している。されば後、ロザレの遺骸に汝の子の隆夫のたましいを住まわせるがよい」
「あ、なるほど。すると、どうなりますか……」
「生きかえりたるロザレを伴い、汝は帰国するのだ。それから先のことは、汝の胸中《きょうちゅう》に自ら策がわいて来るであろう。とにかくわれは、汝ら三名の平安のために、今より呪文《じゅもん》を結ぶであろう。しばらく、それに控《ひか》えていよ」
「ははッ」
 治明博士は、アクチニオ四十五世の神秘《しんぴ》な声に威圧《いあつ》せられて、はッと、それにひれ伏《ふ》した。
 聖者は、不可解なことばでもって、ロザレの遺骸《いがい》に向って呪文《じゅもん》を唱えはじめた。呪文の意味はわからないが、治明博士は、自分の身体の関節《かんせつ》が、ふしぎにもぎしぎしときしむのに気がついた。
(汝ら三名の平安のために――と、聖者はいわれた。汝ら三名とは、いったい誰々のことであろう)と、治明博士は、ふと謎のことばを思い出していた。自分と、それから――そうだ、隆夫のこと
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