の場合なんか、それにちがいない。つまり、名津子さんの肉体といっしょに居る名津子さんのたましいの上に、あやしい女のたましいが馬乗りにのっているんだと考えていい。二つのたましいは、同じ肉体の中で、たえず格闘《かくとう》をつづけているんだ。だから名津子さんが、たえず苦しみ、好きなことを口走るわけだ」
「なるほど、そうですかね」
「名津子さんの場合は、普通よくあるやつだ。しかしお前の場合は、非常にかわっている。お前を襲撃《しゅうげき》した男のたましいは、お前の肉体からお前のたましいを完全に追い出したのだ。そういうことは、普通、できることではないのだ。だから、さっきもいったように、その男のたましいなるものは、非常にすごい奴にちがいない。いったい、何奴《なにやつ》だろう」
 治明博士は、再びおどろきの色をみせて、そういった。
 隆夫のたましいは、父親のいうことを聞いていて、なんだか少しずつわけが分ってくるように思った。と同時に、また別のいろいろの疑問がわいてきた。ことに、彼が信用しかねたものは、たましいの姿のことであった。目の前に見る父親のたましいは、海坊主が白いきれを頭からかぶって、それに二つの
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