ように、全体がすきとおり、そして輪廓《りんかく》だけがやっと見えるか見えないかのものであり、形は海坊主《うみぼうず》のように、丸味をおびて凸凹《でこぼこ》した頭部《とうぶ》とおぼしきものと、両肩に相当する部分があり、それから下はだらりとして長く裾《すそ》をひいていた。また、頭部には二つ並んだ目のようなものがあって、それが別々になって、よく動いた。しかしその目のようなものは、卵をたてに立てたような形をし、そしてねずみ色だった。
「おお、隆夫か。どうしたんだ、お前は」
と、そのあやしい海坊主はいって、隆夫のたましいの方へ、ゆらゆらと寄ってきた。
「あ、やっぱり、お父さんでしたか」
隆夫のたましいは、海坊主みたいなものが、父親治明博士のたましいであることに気がついた。
ああ、なんというふしぎなめぐりあいであろう。祖国を遠くはなれたこのアドリア海の小さい港町で、父と子が、こんな霊的《れいてき》なめぐりあいをするとは、これが宿命《しゅくめい》の一頁で、すでにきまっていたこととはいえ、奇遇中《きぐうちゅう》の奇遇といわなくてはなるまい。
「お父さん。よく生きていて下さいました。親類でもお父さ
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