で彼は決心して、小屋から出ていった。母親にことわって、隆夫は外出した。彼が足を向けたのは、電波物理研究所で研究員をしている甲野博士《こうのはかせ》のところだった。若い甲野博士は、電波の研究が専門で、隆夫がアマチュアになったのも、この人のためで、隆夫の家とは遠い親戚《しんせき》にあたるのだった。


   博士の批判


 甲野博士にねだったかいがあって、博士はその日研究所の帰《かえ》り路《みち》に、隆夫の家へ寄ってくれることになった。
 もう退《ひ》け時《どき》に近かったので、隆夫はしばらく待ってから、博士と連《つ》れ立《だ》って、わが家へ向った。
 門を開いて、庭づたいに小屋の方へ歩いていると、お座敷のガラス戸ががらりとあいて母親が顔を出した。
 甲野博士へのあいさつもそこそこにして、
「ねえ、隆夫。たいへんなことができたよ」
 と、青い顔をしていった。
「どうしたの、お母さん」
「お前の研究室がたいへんなんだよ。さっきひどい物音がしたから、なんだろうと思っていってのぞいてみるとね……」
 母親は、あとのことばをいいかねた。
「どうしたんですか。早くいって下さい」
「中がめちゃめちゃになっているんだよ。なんでもご近所のドラ猫がとびこんだらしいんだがね、金網《かなあみ》の中であばれて、たいへんなことになっているよ」
「えっ、金網の中? それはたいへん」
 隆夫は夢中で小屋の方へ走った。甲野博士もあとから、隆夫の母親と連れだって小屋の方へゆっくり歩む。
 まったく小屋の中はたいへんなことになっていた。もっともそれは金網の箱室の中だけのことであったが、隆夫が一生けんめいに組立てた受信機がめちゃめちゃにぶちこわされていた。大切な真空管も、大部分はこわれていた。ドラ猫は中にいなかった。金網の戸がすこしあいていた。
「しまった」と隆夫は思った、よく閉めておかなかったのが悪かったのだ。なさけなさに、涙も出ず、隆夫は金網の戸をあけて中へはいったが、すみっこに鼠《ねずみ》のしっぽが落ちているのを見つけた。
「ははあ。するとこの中に鼠が巣をつくっていたのかもしれない。そのために、あの雑音が起ったのであろう」
 問題が解けたように思った。
 そこへ博士と母親とがはいって来た。
 隆夫は、甲野さんにすべてを説明した。猫にあばれこまれたらしい話までした。
 博士は、ちょっと考えていたが、

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