るって、とにかくあれは参考になるね」
「君は、もしあの中に、電波が収録されていたら大発見だ。そしてそうであれば姉の病気についても、新しい電波治療が行えることになろうといっていたが、それはどうだね」
隆夫はなぜか狼狽《ろうばい》の色を見せ、
「いや、そんなことはでたらめだ。病人を電波の力で癒《なお》すなんて、そんなことは出来るものではない」
「おかしいね。さっき君のいったことともくいちがっているし、君が日頃語っていたところともちがう。いったいどれが本当なんだ」
「断《だん》じて、僕はいう。君の姉さんの病気はきっと僕がなおして見せる。そのかわり、昨日僕がいったことは、一時忘れていてくれたまえ。今日から僕は、新しい方法によって、名津子さんの病気を完全になおしてみせる。もし不成功に終ったら、僕はこの首を切って、君に進呈《しんてい》するよ」
そういって隆夫は、自分のくびを叩いた。ひどく昂奮《こうふん》している様子だった。
そのとき母親がはいってきて、名津子が目がさめたようですから、と隆夫たちを迎えに来た。
昨日にかわり隆夫の様子がちがっているのは、どうしたことであろうか。
ここは何処《どこ》
ここまで書いてくると、賢明なる読者は、怪しい隆夫のふるまいのうしろに何が有るかを、もはや察せられたことであろう。
そのとおりである。
名津子を見舞に来た隆夫は、その肉体はたしかに隆夫にちがいないが、その肉体を支配している霊魂《れいこん》は、隆夫の霊魂ではないのだ。それは例の霊魂第十号なのである。
前夜隆夫は、とつぜん霊魂第十号の訪問をうけ、そして肉体を半年ほど借りたいから承知をしろと申入れられた。隆夫は、それをことわった。すると隆夫は、とつぜん首をしめられ、人事不省《じんじふせい》に陥ったのだ。
その直後、どういう手段によったものか分らないが、隆夫の肉体から隆夫の霊魂が追い出され、それにかわって霊魂第十号がはいりこんだのである。まさにこれはギャング的霊魂だといわなくてはならない。
とにかくこんなわけだから、翌日隆夫が三木家をたずねたとき、とんちんかんのことばかりいい、家人から不審《ふしん》をかけられたのだ。つまり第十号としては、隆夫の霊魂に入れ替《かわ》ったものの、すべて隆夫のとおりをまねることはできなかったし、また隆夫の記憶や思想をうまく取り入れること
前へ
次へ
全48ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング