り分ることなんだから。それよりも早速《さっそく》君に相談があるんだ。君は僕の希望をかなえてくれることを望む」
 霊魂第十号ははじめから抱いていた用件を、いよいよ切り出した。
「話によっては、ぼくも君に協力してあげないこともないが、しかしとにかく、君の礼儀を失した図々《ずうずう》しいやり方には好意がもてないよ」
「うん。それは僕がわるかった。大いに謝る。そして後で、いくらでも君につぐないをする、許してくれたまえ」
 第十号は、急に態度をかえて、隆夫の前に謝罪《しゃざい》した。
「……で、どんな相談なの」
「それは……」霊魂第十号は、彼らしくもなく口ごもった。
「いいにくいことなのかね」
「いや、どうしても、今、いってしまわねばならない。隆夫君、僕は君に、しばらく霊魂だけの生活を経験してもらいたいんだ。承知してくれるだろうね」
「なに、ぼくが霊魂だけの生活をするって、どんなことをするのかね」
「つまり、君は今、肉体と霊魂との両方を持っている。それでだ、僕の希望をききいれて、君の霊魂が、君の肉体から抜けだしてもらえばいいんだ。それも永い間のことではない。三カ月か四カ月、うんと永くてせいぜい半年もそうしていてもらえばいいんだ。なんとやさしいことではないか」
 あやしい影は、隆夫が目を白黒するのもかまわず、奇抜《きばつ》な相談をぶっつけた。
「だめだ。第一、ぼくの霊魂をぼくの肉体から抜けといっても、ぼくにはそんなむずかしいことはできない。それにぼくは現在ちゃんと生きているんだから、霊魂が肉体をはなれることは不可能だ」
「ところが、そうでなく、それが可能なんだ。そして又、君の霊魂に抜けてもらう作業については、すこしも君をわずらわさないでいいんだ。僕がすべて引き受ける。君はただそれを承知しさえすればいいんだ。めったにないふしぎな経験だから、後で君はきっと僕に感謝してくれることと思う。承知してくれるね」
 隆夫はこの話に心を動かさないわけでもなかった。しかし、不安の方が何倍も大きかった。もっと相手が、自分に十分の安心をあたえるように説明してくれたら、一カ月やそこいらなら霊魂だけでとびまわってみるのもおもしろかろうと思った。
 が、そのときだった。隆夫は急に胸苦《むなぐる》しさをおぼえた。はっとおどろくと、あやしい影が隆夫のくびをしめつけているではないか。
「なにをする。ぼくはまだ承
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