」
「気が変になった人を治療する方法は、これまでに医学者によって、いろいろと考え出された。しかしだ、実際にこの病気は、あまりなおりにくい。それから、今までとは違った治療法を考えだす必要があると思うんだ。そうだろう」
「それはわかり切ったことだ」
誰もみな隆夫のいうことに異議はなかった。
「そこでぼくは考えたんだが、そういうときに、病人の脳から出る電波をキャッチしてみるんだ。そしてあとで、その脳波を分析するんだ。それと、常人の脳波と比較してみれば、一層なにかはっきり分るのではないかと思う。この考えは、どうだ」
「それはおもしろい。きっと成功するよ」
「いや、ちょっと待った。脳波なんて、本当に存在するものかしらん。かりに存在するものとしてもだ、それをキャッチできるだろうか。どうしてキャッチする。脳波の波長はどの位なんだ」
四方勇治《よつかたゆうじ》が、猛然と新しい疑問をもちだした。
「脳波が存在するかどうか、本当のことは、ぼくは知らない。しかし脳波の話は、この頃よくとび出してくるじゃないか。でね、脳波はいかなる理論の上に立脚《りっきゃく》して存在するか、そんなことは今ぼくたちには直接必要のない問題だ。それよりも、とにかく短い微弱《びじゃく》な電波を受信できる機械を三木君の姉さんのそばへ持っていって、録音してみたらどうかと思うんだ。もしその録音に成功したら、新しい治療法《ちりょうほう》発見の手がかりになるよ」
「それはぜひやってくれたまえ、隆夫君」
この話をすると、三木は、はげしい昂奮《こうふん》の色を見せて、隆夫の腕をとらえた。
「おい、四方《よつかた》君。君はどう思う」
「脳波の存在が理論によって証明されることの方が、先決問題《せんけつもんだい》だと思うね。なんだかわけのわからないものを測定したって、しようがないじゃないか」
「いや、机の前で考えているより、早く実験をした方が勝ちだよ」と、二宮孝作《にのみやこうさく》が四方の説に反対した。
「元来《がんらい》日本人はむずかしい理屈をこねることに溺《おぼ》れすぎている。だから、太平洋戦争のときに、わが国の技術の欠陥をいかんなく曝露《ばくろ》してしまったのだ。ああいうよくないやり方は、この際さらりと捨てた方がいい。分らない分らないで一年も二年も机の前で悩むよりは、すぐ実験を一週間でもいいからやってみることだ。机の前で
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