けになっても小屋から出て来ないことがあった。また、「お母さん、今夜は重要なアマチュア通信がありますから、ぼくは小屋で寝ますよ」などと、手製の電話機でかけてくることもあった。
この小屋には、同じ組の二宮《にのみや》君と三木《みき》君が一番よく遊びに来た。この二人も、そうとうなアマチュアであった。
隆夫の方はほとんどこの小屋から出なかった。友だちのところを訪《おとず》れることも、まれであった。
そのような一畑少年が、この間から一生けんめいに組立を急いでいる器械があった。それは彼の考えで設計したセンチメートル電波の送受信装置であった。
この装置の特長は、雑音がほとんど完全にとれる結果、受信の明瞭度《めいりょうど》がひじょうに改善され、その結果感度が一千倍ないし三千倍良くなったように感ずるはずのものだった。
その外にも特長があったが、ここではいちいち述《の》べないことにする。
その受信機は組立てられると、小屋の中にある金網《かなあみ》で仕切った。奥の方に据《す》えられたあらい金網が、天井から床まで張りっぱなしになっているのだ。その横の方が、戸のようにあく、そこから中へはいれる。その仕切りの中の奥に台がある。その上に例の受信機は据えられた。送信機の方は、もっとあとにならないと組上がらない。
パネルは、金網の上に取付けてあった。受信機とパネルの間には、長い軸《じく》が渡されてあった。金網の外で、パネルの上の目盛盤《めもりばん》をまわすと、その長い軸がまわって、受信機の可動部品を動かすのである。
金網はもちろんよく接地《せっち》してある。だからパネルの前に人間が近づいて、目盛盤をまわしても、受信回路の同調を破ったり、ストレー・フィールドを作って増幅回路へ妨害を与えたりすることはない。この金網は、じつは天井も床も四方の壁をも取り囲んでいて、つまり受信機は大きな金網の箱の中に据えられているわけだ。これほど念を入れてやらないと、波長がわずかに何センチメートルというような短い電波を、純粋にあつかうことはできないのだ。
隆夫は、自分の受信機が、非常にすぐれていると信じていた。これが働きだしたら、ひょっとすると火星などから発信されている電波を受けることもできるのではないかとさえ考えていた。
もちろん彼は、火星だけをあてにしているわけではなかった。最近の観測によると、火星に
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