空っぽの廻転椅子が一つと、その横にも空っぽの椅子が一つ、抛《ほう》り出されたように置かれてあった。さっきの話し手は、この一つの椅子に坐っていたものに違いない。ではこの廻転椅子にいたのは誰だったか。またも一つの椅子の客は何者だったろうか? いずれにしてもそれは敵のものには違いない。
 そこで帆村は注意深く机の上を隅から隅まで観察した。机上《きじょう》には本や雑誌が散らばっているが、その壁に近く、開封した封筒とその中から手紙らしいものが食《は》み出しているのを見つけた。
 それは忽《たちま》ち帆村の所有慾を刺戟した。
「あれが吾《わ》が手に入ったらなァ」
 だが鉄格子はどこで打ちつけてあるのか、ビクリとも動かない。だから格子を外《はず》して降りようたって簡単にはゆかない。見す見す宝を前にして指を銜《くわ》えて引込《ひっこ》むより外《ほか》しかたがないのであろうか。帆村は歯をぎりぎり噛みあわせて残念がった。
「焦《あせ》ってはいけない」と、帆村は自分自身に云いきかした。「それより落着いて考えるのだ。人間の智慧を活用すれば、不可能なものは無い筈だ」
 ジリジリとする心を静めて一分、二分、それか
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