するが承知かネ」
「マッチが日本官憲の手に渡るというのか。そんな莫迦《ばか》なことがあってたまるか。残りのマッチ函は『赤毛のゴリラ』の働きで取りかえしてあることは知っているではないか」
「そうでない。川村秋子の胃液に交っているのを分析すれば分る」
「そんな事なら心配いらない。胃酸に逢えば化学変化を起して分らなくなる。はッはッ」
「まだ有る。安心するのは早いぞ。――実は僕があのマッチ函から数本失敬して某所《ぼうしょ》に秘蔵している。僕がここ数日間帰らないと、先刻《さっき》云ったようにそのマッチと僕の意見書とが、陸軍大臣のところへ提出されることになる。そうなれば後はどんなことになるか君にも容易に想像がつくだろう」
「ウーム、貴様という貴様は……」
と、首領は全身をブルブル震わし、銃口をグイグイと帆村の肋骨《あばらぼね》に摺《す》りつけたが、引金を引くと一大事となるので、歯をギリギリ云わせて射撃したいのを怺《こら》えた。
「さあ、撃つなら撃つがいい……どうして撃たないのだ」
「ウム――」
と相手は気を呑まれて一歩退いた。――と、エイッという気合が掛かって首領の身体は風車のようにクルリと大
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