」
「ところが――どうしたというのだ」
「ところが、そのマッチは特別に作ったもので、燐の外に、喰べるといけない劇薬が混和されていたのだ。イヤ喰べるとは予期されなかったので劇薬が入っていたのだといった方がよいだろう。その成分というのは……」
「うん。その成分というのは――」
怪《あや》しき図譜《ずふ》
「さあ、早く云わぬか。――そのマッチの成分というのは何だったと云うのだ!」
と、首領「右足のない梟《ふくろう》」はせきこむように詰問した。
「極秘のマッチの成分なら、君がたの方がよく知っているじゃないか」
と、帆村は肝腎のところで相手の激しい詰問に対し、軽く肩すかしを喰わせた。
「嘲弄《ちょうろう》する気かネ。では已《や》むを得ん。さあ天帝に祈りをあげろ」
「あッ、ちょっと待て!」
「待てというのか。じゃ素直に云え」
「云う、といったのではない、それよりも――君のために忠告して置きたいことがあるからだ」と帆村は騒ぐ気色もなく「僕を殺すのは自由だが、すると例のマッチがわが官憲の手に渡り、添えてある僕の意見書によって綿密な分析が行われ、結局君たちの計画が大頓挫《だいとんざ》を
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