なり耳に立つ音がしている。それは毒瓦斯《どくガス》をしきりに排気している送風機の音だった。排気が済まないと、首領は出て来られないのだと、帆村は早くも悟った。
そこで彼は低い声で、何事かを早口に喋《しゃべ》った。それを聞くと赤毛は肯《うなず》いた。そしてゴロンとその場に倒れてしまった。
やがて送風機の音が止った。そして正面の鉄扉が弾かれたようにパッと開くと、まるで開帳された厨子《ずし》の中の仏さまのように、覆面の首領が突っ立っていた。その手にはコルトらしいピストルを握って……。
「さあ帆村君。動きたければ動いてみたまえ。ナニ動きたくないって。そうだろう。直《す》ぐピストルの弾丸《たま》を御馳走するからネ。――さて、それよりも君に至急聞きたいことがあるのだから、答えて呉れたまえ」
といって首領はジリジリと帆村の方に近づいて来た。覆面対覆面――それは首領対帆村の呼吸《いき》づまるような一大光景だった。
「帆村君」と首領はなおも油断なくピストルの口金を帆村の胸にピタリと当てて「君は銀座事件でマッチ函を怪しいと睨んでいるそうだが、一体あのマッチ函のどこが怪しいというのかネ」
「……」帆村は
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