一人だけ覆面を取らぬ団員があったが……。
「――君の勝だ! 好きなようにしたまえ」
と、突然叫んだのは、覆面を取らぬ彼の団員だった。彼はスックと立ち上るなり、両手を頭上にあげて、敵意のないのを示した。
「はッはッはッ」と天井裏の声は憎々《にくにく》しげな声で笑った。「日本の探偵さんは、案外もろいですネ。……さァ、動くと生命《いのち》がないぞ。じッとしているんだ」
いよいよ首領は、この部屋に出て来る気勢をみせた。それを知ると「赤毛のゴリラ」は色を失ってしまった。首領が出て来れば、赤毛の生きていることが分り、一発のもとに斃《たお》されるに決っている。いや既《すで》に首領は赤毛が帆村から恵まれた簡易防弾衣で生命を助かったことを知っているかも知れない。彼としては団員として働いていた間は死を覚悟していた。しかしもう彼は団員でもない。それどころか既に銃殺されて黄泉《こうせん》の客となっていた筈《はず》である。死線を越えて――彼の場合は、死ぬのが恐ろしくなった。
「どうか、私を助けて下さい――」
赤毛はワナワナ慄《ふる》えながら帆村の腰に獅噛《しが》みついた。
室内にはシューシューと可《か》
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