れん」
「須永という男は名前のように気が永いと見える。早く帰って来んかなァ。もう七時だぜ」
 しかしその七時が八時になっても愚《おろ》か、十二時を打っても須永は帰って来なかった。
 須永に限り、こんなに遅くなることはない。遅くなりそうだったら、途中から電話か使いかを寄越《よこ》す筈《はず》だった。それが何も云って寄越さないのだから不審だった。といって須永を探しにゆくにも手懸《てがか》りがなかった。
 遂《つい》に夜が明けてしまった。
 帆村には、もう大江山課長の揶揄《からかい》も耳に入らなかった。
「須永は、どうしたんだろう?」
 彼は痺《しび》れるような足を伸して、窓際《まどぎわ》に行った。そして本庁の前を漸《ようや》く通り始めた市内電車の空いた車体を眺めた。
 そのときだった。二人連れの警官が一人の男を引張ってこっちへ来るのが見えた。男は、ズボン一つに、上にはボロボロに裂けたワイシャツを着ていた。よほど怪力と見えて、やっと懸け声をして腕をふると、二人の警官は毬《まり》のように転《ころ》がった。それで自由になったから逃げだすかと思いの外、彼《か》の若者は路上でどこかのレビュウで覚えた
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