と》のように床下に下ろした上で、二人を一座の中央に引据えて、その黒い服を剥《は》ぎとった。するとその覆面の下から現れた二つの顔! ああ意外にも、その大きい方の顔は、銀座に猿を連れて現れ、屍体からマッチ箱を盗んでいった大男だった。もう一人は知らない顔だった。
「まず最初に『狐の巣』に宣告する」と首領は言った。「君には秘密にすべきマッチ箱を売った失敗を贖《あがな》うことを命ずる。但《ただ》し我等の祖国は君の名をR団員の過去帖に誌《しる》して、これまでの忠勇を永く称するであろう、いいか」
「狐の巣」は絶望の眼をあげた。途端にドーン……という銃声が響いて「狐の巣」の身体は崩れるように床の上に倒れた。
例の大きな男は、これを見るや真青になった。
赤毛のゴリラ
銃殺に遭った「狐の巣」と呼ばれる男は多量の出血に弱りはてたものと見え、やがて宙を掴んだ手をブルブルと震わせると、そのまま落命した。
「さて次は『赤毛のゴリラ』に対する宣告であるが――」と首領「右足のない梟《ふくろう》」は厳《おごそ》かな口調で云った。一座はシーンと静まりかえって、深山幽谷《しんざんゆうこく》にあるのと何の選ぶところもない。
「――その前に、すこしばかり意見を交換して置きたい。『赤毛のゴリラ』が得意の猿を使ってマッチ箱を奪還《とりかえ》したことは、部下の過失をいささか償《つぐな》った形だが、そのマッチ一箱にはマッチが半数ほど失われている。見ればその箱にはマッチを擦った痕跡もないが一体どこへ失われたのか、意見はないか」
「本員にも明瞭《めいりょう》でありませぬが、お尋ねゆえに私見《しけん》を申上げます」と彼の大男はいった。「失われた半数のマッチは、かの頓死した日本婦人が嚥《の》み下《くだ》したものと思います。だから婦人は一命を損じたのです」
「ナニ嚥み下した。嚥み下すと死ぬのは分っているが、ではかの婦人はあのマッチの尖端が何で出来ているのか知っていたと思うか」
「それは知らなかったと思います。あの婦人は何かの身体の異状によって、マッチの軸《じく》を喰べないでいられなかったのです。つまり|赤燐喰い症《せきりんイーター》です。あの黒い薬をゴリゴリと噛みくだいて嚥んだので、マッチで火を点けたのではないから、箱には擦った痕跡がついていないのです」
「するとその婦人は、あのマッチの不足分は全部胃の中に
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