こうとするのを、人々はたって引留めた。そして口々に、彼の幸運話を聞かせてくれるようにと無心したのだった。
「私のことなら、別に不思議はありませんよ」と北鳴は云った。「避雷針を持っている者は、誰だって、ああいう風に平気で安全でいられますよ。但《ただ》し、これだけはハッキリ申して置きますが、避雷装置は完全でなければならないということです。先日、私はこの町で、恰好だけは仰々しく避雷針の形をして居り、その実、一向避雷針になっていない不完全避雷針を見ました。皆さん、本当の避雷装置というのは、あの尖《とん》がった長い針を屋根の上に載せて置くだけでは駄目です。あの針は、雷を引き寄せるだけの働きしか持っていないのです。あの針は、太い撚《よ》り銅線《あかせん》を結びつけ、その撚り銅線を長く下に垂らし、地面の下に埋め、なおその先に、一尺四方以上の大きな金属板をつけて置かなくちゃあ、避雷装置になりません。なぜって、その銅線は、針のところへ引き寄せた雷をそのまま素早く地中に流してやる通路なのです。つまり雷の正体は、電気なのですからね。その通路が完全に出来ていなければ、折角《せっかく》針に引き寄せた雷は、仕様こ
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