うむ》るわけでしょうかネ」
北鳴には、松吉の質問が聞えたのか聞えなかったのか分らないがそれに応えないで、すっかり雨のあがった往来に出ていった。
5
それから二日後のことだった。
その日は、稀に見る蒸し暑い日だったが、午後四時ごろとなって、比野町はその夏で一番物凄い大雷雨の襲うところとなった。それは御坂《みさか》山脈のあたりから発生した上昇気流が、折からの高温に育《はぐく》まれた水蒸気を伴って奔騰《ほんとう》し、やがて入道雲の多量の水分を持ち切れなくなったときに俄かにドッと崩れはじめると見るや、物凄い電光を発して、山脈の屋根づたいに次第次第《しだいしだい》に東の方へ押し流れていったものだった。
ゴロゴロピシャン! と鳴るうちはまだよかった。やがて雷雲が全町を暗黒の裡《うち》に、ピッタリと閉じ籠めてしまうと、ピチピチピチドーン、ガラガラという奇異な音響に代り、呼吸《いき》もつがせぬ頻度をもって、落雷があとからあとへと続いた。
その最中、町では大騒ぎが起った。
「おう、火事だ。ひどい火勢だッ」
「これはたいへんだぞ。勢町の方らしいが、あの真黒な煙はどうだ。これは油
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