ッカリ握りしめていた。
「ああ、妹たち夫婦は、この雷鳴の中に、もう死んだに違いない」彼は呻《うめ》くように云った。「北鳴四郎というやつは、八つ裂にしてもあき足らぬ悪漢だ。彼はおれの書いた落雷の研究報告を悪用して、あの恐るべき殺人法を思いついたのだ。目的物の近傍に、高い櫓を二基組み、その上に避雷針を建てる。すると近づいた雷雲は、もちろん二基の避雷針の上にも落ちるが、丁度二基の中間にある目的物の上にも落ちる。その目的物に避雷装置があればいいが、もしそれがなければ恐ろしい落雷が起る! それはおれの研究の逆用じゃないか! そんな恐ろしい計画のもとに、両親が殺されたとは、この手紙を見るまで、どうして想像ができたろう。いや慨《なげ》くのは後でもいい。今はたった一人の愛すべき妹とその夫が、全く同じ手で殺害されようとしているのだ。……ああ、おれはもう、この雷鳴の済むまで待ってなどいられないんだッ」
 そう叫ぶとともに、雅彦は大雷雨の中に、豹のように躍りだしていった。彼は自分の身にふりかかる危険などは考えていられなかった。ただ一途に、愛すべきたった一人の同胞《はらから》であるお里を救うの外、なんの余念もなかった。
 果して彼は目的地点で、何を発見したろうか。
 無残なるお里と、その夫英三の惨死体だったであろうか?
 いや、そうではなかった。それは全く思いがけない懐しい妹の笑顔だった。もちろん英三も共に無事だった。悪い籤《くじ》を引き当てたのは、実にこの奇抜な殺人計画をたてた悪人北鳴四郎があるばかりだった。兄弟は、夢とばかりに抱きあって、悦びにあふれてくる泪《なみだ》を、せきとめかねた。
 それにしても、なぜ北鳴四郎は雷撃にあって死んだのだろう。
 それには恐ろしい因縁ばなしがあった。彼は、その攀じのぼっていた高櫓の避雷針が、完全に避雷の役目を果たして呉れることと思い違いをしていたのだった。もちろんその櫓を建てたときには、避雷装置は十分完全なものだった。しかしあの豪雨の前日になって、その二基の避雷装置は急に不完全なものと成り下ったのだった。それは何故だったろう?
 それは化助の仕業に外ならなかった。しかしそれをそうさせたのは、この櫓を組んだ松屋松吉だった。彼は神経性になってイライラしているとき、頻々《ひんぴん》と化助の金ねだりに逢って、遂に思いあまった末、あの櫓の避雷針と大地とを繋ぐ長
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