った。
「甚だお手数ですが、熊井君の自殺状況について、もう一度私に詳しいお話をして頂きたいのですが……。さあどうぞ、煙草をおとり下さい」
と、警部は自分のシガレット・ケースを青年の前へ差出した。
「は、これはどうもすみません」
柴谷は大いに喜んで、紙巻煙草を一本取って、警部のライターで火をつけた。柴谷の指先は、やにで染めたように褐色であった。
「これまでに何度もお話したことですが」柴谷は断りながら「熊井とはたいへん親しい間柄でしたが、ここ一ヶ月ばかり彼は非常に躁鬱性《そううつしょう》に陥っていましてね、死ぬんだ死ぬんだと僕に洩《もら》らしていました。僕は心配しましてね、何とかして彼を元気づけたいと思い、それには都会を離れて大自然の懐に入るのがいいと考え、幸いにうちの密林荘が空いていたものですから、そこへ連れていったのです。もちろん山荘ですから、二人で自炊生活するしかなかったのです」
「なるほど。それで密林荘というのは、どんなところですか」
「県境にある森林地帯の奥にあるのです。有名な××湖を傍にひかえていますが、湖岸から奥へ約十町ほど、昼なお暗き曲りくねった小径を入って行くと、突然
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