角だぞ」
一行は、後をふりかえった。するとおどろくべし、後方百メートルのところの草原《くさはら》が、むくむくともちあがると見るまに、その下から盛んに土をとばしながら地下戦車の大きな背中が、ぬっとあらわれたのには、一同はおどろき且《か》つよろこんで、思わず声をそろえて、万歳《ばんざい》を叫んだのであった。
ああ、ついに実用になる地下戦車が完成したのだ。これこそ、わが機械化部隊の歴史的瞬間であった!
すっかり巨体《きょたい》をあらわした地下戦車の中から、岡部伍長がまっ赤に上気《じょうき》した顔をあらわした。彼は報告のため、加瀬谷少佐の前に駈《か》けつけ、ぴったりと挙手《きょしゅ》の礼をし、
「岡部伍長外三名、地下戦車第二号を操縦して、地下七百メートルを踏破《とうは》、只今|帰着《きちゃく》しました。戦車及び人員、異状なし、おわり」
「おお、よくやった。おれは満足じゃ」
と、少佐は、つと前にすすんで、岡部伍長の手をつよく握った。
「おい岡部、お前も満足じゃろう。とうとう地下戦車長として成功を収めたんだからなあ」
「いや、まだ成功はして居《お》りません」
「なに、成功をしとらんというのか」
「はい。操縦してみまして、まだまだ気に入らないところを沢山発見しました。自分は、さらに改良の第三号を作りたいと思います。それが完成すれば、どうやらこうやら、皇軍機械化部隊のお役に立つことと思います」
岡部一郎は、この輝かしい成功の誉《ほまれ》をしりぞけて、どこまでも謙遜《けんそん》したのは、床《ゆか》しきかぎりであった。
底本:「海野十三全集 第7巻 地球要塞」三一書房
1990(平成2)年4月30日第1版第1刷発行
※図版は、初収単行本の「未来の地下戦車長」山海堂出版部、1941(昭和16)年10月1日発行からとり、文字のみ新字にあらためました。
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:kazuishi
2006年10月21日作成
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