るだけのことをいった。一郎は、うなずいて、
「おじさんは、もぐらが土を掘っているところを、そばに立ってみていたことがあるの」
と、きいてみた。
「ばか、いわねえもんだ。土を掘るのは夜中だというのに。わしはな、こう見えても、夜中に、わざわざ土を掘るところを見にいくようなばかじゃねえぞ」
一郎は、それはばかではなくむしろかしこいのだと説明したが、お百姓さんには、それが一向に通じなかった。
そこで一郎は、自分は、もぐらが土を掘るところを見て、もぐら式の戦車をつくりたいからお百姓さんに、生きているもぐらを、できるだけたくさん、つかまえておいてもらいたい。もぐら一頭につき、五十銭ずつで買うからと頼みこんだ。
「ええ、それは本当かね。一頭につき、本当に五十銭だな」
お百姓さんは、きげんをなおして、にこにこ笑いだした。
もぐら一箱
もぐらがつかまったら、お百姓さんは、一郎のところへ、ハガキをくれることになっていた。
一郎は、生きているもぐらを買って、どうするつもりであろうか。
それから四五日たって、お百姓さんから、ハガキが来た。もぐらがたくさんとれたから、至急、買いに来てくれというのである。
一郎は、さっそく、車をひいて、お百姓さんのところへいってみた。
「こんちは。もぐらが、つかまったそうですね」
お百姓は、畑をたがやしていたが、一郎を見ると、鍬《くわ》をそこへおいて、やってきた。
「はあ、本当に来たね。お前さんは、本当に、五十銭ずつで買ってくれるのかね」
「大丈夫、本当です」
お百姓は、しきりに念をおすのだ。
「皆、買うかね」
「それはもちろん。皆買います。多いほど、うまくいくと思うから」
「よし。じゃあ家へ来なせえ。納屋《なや》に入れてあるから」
お百姓さんにつれられて、一郎は、その家へいった。大きな百姓家だった。この辺で、一番大きいお百姓さんだということだった。
お百姓さんは、納屋の戸を、がらがらとあけて、中にある大きい箱を指した。
「この箱の中にはいっているよ。中へ、光がさしこまないように、よく目ばりをしてあるが、これだけ頭数をそろえるのに、わしは、ずいぶんくろうしたよ」
「へえ、そうですか。それで、皆で、幾頭はいっているのですか」
一郎は、もぐらの数をたずねた。
「そうだなあ。数えちがいがあるかもしれんが、すくなくとも、二十六頭は、はいっているよ」
「へえ、二十六頭。あの、もぐらが………」
二十六頭のもぐらが、はいっているときかされ、一郎は、さすがにおどろいた。彼は、せいぜい四五頭だろうとおもっていたのである。
「二十六頭とは、ずいぶんな数ですね」
「そうだよ。わしは、こんな骨折ったことはない。おかげで、このあたり一帯のもぐら退治ができたよ。どれ、はっきりした数を、かぞえてみようか」
お百姓さんは、懐中電灯をつかって、箱の中のもぐらの数をしらべた。
「ああ、わかったよ。二十六頭じゃなかった」
「はあ。少なくても、やむを得ません」
「いや、もっとたくさんだ。皆で、ちょうど三十頭ある」
「えっ、三十頭? 一頭五十銭として、皆で、ええと十五円か」
「にいさん。どうも、すみませんね」
「いや、どういたしまして……」
一郎は、十五円|也《なり》の、もぐら代には、おどろいたが、正直なお百姓さんと約束したことだから、どうも仕方がない。ちゃんと十五円を払って、三十頭のもぐらのはいった箱を、車のうえにつんだ。
「お前さん、三十頭ものもぐらを、どうするつもりかね。やっぱり、毛皮をとるのだろうが……」
「いや、毛皮のことは、考えていないのです。ところで、おじさん。どこか、ひろびろとしたところは、ありませんかね。もちろん、畑みたいなところは、だめです。なるべく、木のすくない、そして土がやわらかで、草は生えていてもいいが、あまり草がながくのびていないところはないでしょうか」
「さあ、どこだろうなあ。一体、そこで、何をしなさるつもりじゃな」
「ええと、それは、まあ、こっちの話なんですが、とにかく、そんな場所があったらおしえて下さい」
「そうじゃなあ。ひろびろとして、木がなく、土がやわらかで、草がみじかいところというと……」
お百姓さんは、しばらく首を曲げていたが、やがて、とんと足をふんで、
「あるよ、あるよ。この道を、むこうへ、一キロばかりいって、左を見ると丘がある。まわりには松の木が生えているが、その丘の上は、三十万坪もあって、たいへんひろびろとしている。そこがいいだろう」
「そんなところがあるのですか」
「いってみなさい。あまり人がいないよ」
生きている地下戦車
その夜、一郎は、もぐらのはいった箱を、車にのせて、お百姓さんにきいたその丘のうえへいってみた。ぼんやりと西の空に、月が出ていた。
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