だ。おい、全隊、土を崩して、地下戦車を急ぎ掘り出せ!」
 珍らしい号令が出た。
 待機していた小隊の全員は、鶴嘴《つるはし》とシャベルとをもって、戦車のそばに駈けつけた。
 そして急いで土を崩して、地下戦車を救いにかかった。どうやら、地下戦車第一号は、失敗の巻《まき》らしい。


   科学する心


 せっかく骨を折って設計した地下戦車第一号が、ものの見事に、失敗の作となってしまったので、岡部一郎の落胆《らくたん》は、非常に大きかった。
 彼は、掘りだされた醜態《しゅうたい》の地下戦車の中から瓦斯《ガス》にふかれたまっくろな顔を外へ出したとき、その両眼は、無念の涙で一ぱいだった。
 彼は、戦車からはいだすと今にもぶったおれそうな身体を、両脚で支《ささ》えて、加瀬谷少佐の前に出た。
「部隊長どの、自分は……」
 とまではいったが、あとはのどにつかえて、声が出なくなった。彼は、歯をくいしばって、われとわが横面《よこつら》を、がーんとなぐりつけた。そして、はっとしたところで、彼は、懸命の声をふりしぼって、
「……自分は、すまないことをいたしました。用意が足りんで、まことに、すまないであります」
 岡部一郎は、それだけいうと、もうたまらなくなって、思わず戦車服の袖《そで》で、両眼をおさえた。ぽたぽたと、大粒の涙が、戦車帽の袖から、下に落ちて、土にしみこんだ。
 加瀬谷少佐は、じっと岡部伍長のこの様子を見ていたが、そのとき、形を改《あらた》め、
「岡部伍長、今日の地下戦車の試験は、ついに失敗におわった、お前の設計は、まだ充分でない。そのことは、部隊長として、叱《しか》り置く」
 と、きめつければ、岡部伍長は、涙にぬれた顔をあげ、厳然《げんぜん》と不動の姿勢をとって、
「はい」と、こたえた。
「だが、この失敗のためにお前に命じた地下戦車研究の志《こころざし》がもしすこしでも鈍《にぶ》るようなことがあれば、わしはお前をさらに叱りつけねばならん」
 加瀬谷少佐は、一段と声をはげましていった。
「はい」
「もし、ここでお前の志がくじけることあらば、わしは、お前の御奉公《ごほうこう》の精神をうたがう。つまり、お前は、自分一個の慾心《よくしん》で、これまで地下戦車の研究をつづけていたのだと思い、わしはお前を新《あらた》に叱るぞ」
「は」
「地下戦車の研究は、お前一個の慾望を充たすために
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