なるほど、そこは、ひろびろとしている。三十万坪はあろう。
芝草らしいものが生えているが、草は、同じくらいに、短くかられている。ねころがっても、いいようなところであった。
「これは、いいところだなあ。ここなら、もぐらを放すのには、もってこいの土地だ」
一郎がもぐらを買いしめたわけは、夜になって、もぐらを放って、生きている地下戦車であるもぐらが、土を掘るところを見るつもりだったのである。
「草のみじかさかげんも、これならおあつらえ向きだ。もぐらさん、さあ放すから、どんどんここを掘ってみておくれ」
一郎は、車のうえから、箱を下ろして、その入口を開いた。箱のうしろを叩くと、もぐらは、おどろいて、われがちに、せまい入口からぞろぞろと、とびだした。
淡い月光の下に、草原をもぐらの大群が、突撃隊のように、ころころと、はっていくところは、なかなか風《ふう》がわりな風景であった。一郎は、地下戦車長になる前に、もぐら隊長になろうとは、ゆめにも考えていなかった。
一郎は、十五円のもぐら隊のあとから、にこにこ笑いながら、様子を見まもっていた。
なにしろ、もぐらの数は多いし、それに、ここは、べらぼうにひろいから、もぐらの行方を、いちいちしんぱいする必要はなかった。いずれそのうち、もぐらのどれかが土を掘りだすだろうから、そうしたら、そのもぐらのそばへいって、彼の地下進撃ぶりを観察すればいいのであった。
もぐらの大群は、まっくろな一かたまりになって、青草のうえを、はいまわっている。永いこと車にのせられたので、まだおどろいているらしい。一郎はそり身になって、もう西の森かげに落ちそうな淡い片われ月を見上げた。
「ああ今ここに、高度国防国家日本建設の、かがやかしき歴史が、くりひろげられていくのだ。
だがぼくの外《ほか》に、だれも、それを知っている者がないのだ。
ああ、なんという神秘《しんぴ》な夜であろう。――だが一体、ここは、ばかにいいところだ。こんないいところを放っておかないで、家でも建てたらいいだろうに、おしいことだ」
一郎は、詩情にかられたり、それからまた土地|監理《かんり》案を考えたり――。
そのうちに、もぐらの群が、なんだか、大きくなったように見えた。それはへんなことだから、そばへいってみると、どうであろう。もぐらはそれぞれ、草原《くさはら》に穴をあけて、中へもぐりこん
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