さんは近所だからよく知ってなさるんでしょう」
豊乃を一時去らせると、検事は云った。
「さっきの矛盾した事実はこれで説明ができるようだね。みどりは、金《かね》と親とに縛《しば》られて厭《いや》な男と結婚しなけりゃならないのだ」
「それでは、みどりが松山に毒を盛ったとすると、どんな方法によったんでしょうか」と河口警部が反問した。
「松山が気をゆるしているとすれば、彼の湯呑《ゆのみ》へみどりが毒薬を入れることは訳のないことだ。君、松山のつかった湯呑について分析を頼んでほしいね」
「ちょっと私から申上げますが」と先刻《さっき》から黙々《もくもく》として卓子《テーブル》の上に表向きにした牌《こま》を種類どおりに綺麗に並べあげて、その表をつくづくと眺めていた帆村探偵が言った。
「こう順序よく牌を並べてみて判ったわけですが、ごらんなさい此処《ここ》に九索《ちゅうそう》という牌が四枚並んでいます。ところでその内の一枚は、他の三枚にくらべて彫刻に塗りこんである絵具《えのぐ》が莫迦に色褪《いろあ》せています。一体、牌《こま》に水がかかると少し色がはげますが、よくこの牌を見ると、はげたばかりでなく元は赤と
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