う》となった。絶命してから、まだ一時間と経っていないことは、屍体の腋下《えきか》にのこる生《な》ま温い体温や、帆村の参考談から、証明された。しかしどんな毒物が用いられたか、又毒物がどこから入ったかは、屍体解剖の上ならでは判らないとのことであった。帆村は拇指《ぼし》の腹にある傷跡について一応係官の注意をうながしておいた。
 麻雀卓子の辺《あたり》も、捜査が行われたが、それは帆村探偵のやったほど綿密なものではなかったのであった。
 そこでいよいよ松山虎夫変死事件の詮議《せんぎ》がはじまることとなった。帆村探偵は、松山たちの動静《どうせい》につき、その夜見ていたままを、雁金《かりがね》検事と、河口《かわぐち》捜査課長とに説明した。それはこの物語の最初にのべたとおりのことであったが、彼、帆村探偵が見遁《みのが》した事実もかなり多い筈であると附け加えることを忘れなかった。
 いろいろ意見が出たうちで、松山は自殺したものでないという点では、誰もが一致した。彼は自殺をするような性格でもなかったし、そのポケットから遺書らしいものはすこしも発見されなかったし、彼の銀行預金帳には多額の預金があったし、それ
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