本艦を退去したまえ」
「え、それはたいへん。おい急ぎ引揚げろ。して、金博士、君は」
「わしのことは心配するな。艦載機《かんさいき》にのって引揚げる。すっかり自動式のこのホノルル号に、水兵一人乗っていないから、わしが引揚げさえすれば、それでよいのじゃ。さらば、さらば」


     7


 大統領は命からがら沈みつつある不沈軍艦ホノルル号を退艦《たいかん》した。
 後がワシントンに帰ってきたときは、出かけるときとはちがって、大した上機嫌《じょうきげん》であった。
「さあ、余は百隻の不沈軍艦を、これから一年間のうちに所有することになるぞ。早速《さっそく》建艦命令|教書《きょうしょ》を書くことにしよう。おおヤーネルか、すばらしいじゃないか。再生のわが不沈艦隊は……」
「しかし……」とヤーネルは、不審《ふしん》の様子で、大統領のよろこぶ顔を見上げていう。
「不沈軍艦建造案は、たいへんよろしいですが、大統領閣下、それに使うゴムはどこから手に入れるのでございましょうか」
「なにゴム? ゴムは蘭印《らんいん》マレイから……いや失敗《しま》った」
 とたんに大統領は、蒼白《そうはく》になって、椅子の
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