個所だ。建艦委員、よく見、よく聞け」
「これがすなわち、さっき話をしたように……」
 と、博士の説明が始まったが、轟々《ごうごう》たる浸水《しんすい》の音がとかく邪魔をしていけない。博士はそれにお構いなく喋《しゃべ》りつづける。
 一応の説明がすんだ。
 大統領はもちろん、幕僚も建艦委員も共に金博士の智力《ちりょく》の下に慴伏《しょうふく》した感があった。
「うむ、大したものだ。これを真似《まね》て、早速百隻の不沈軍艦をつくれば、日本海軍に太刀打《たちうち》出来ないこともあるまい」
「どうだ、気に入ったかね、ルーズ君」
「いや、大気《おおき》に入りだ。余《よ》は金博士を今日只今、名誉大統領に推薦することを全世界に宣言する」
「大きなことをいうな」
「そして金博士に贈るに、ナイアガラ瀑布一帯の……いや、瀑布のように水が入ってくるわい。おや、艦《ふね》がひどく傾いて沈下《ちんか》してきたが、まさかこの不沈軍艦が沈むのではあるまいな」
「この見本軍艦の用もすんだから、わしはもうこの辺で沈めて置こうと思うのじゃ。さあルーズベルト君。ぐずぐずしていると、艦《ふね》もろとも沈んでしまうよ。いそいで本艦を退去したまえ」
「え、それはたいへん。おい急ぎ引揚げろ。して、金博士、君は」
「わしのことは心配するな。艦載機《かんさいき》にのって引揚げる。すっかり自動式のこのホノルル号に、水兵一人乗っていないから、わしが引揚げさえすれば、それでよいのじゃ。さらば、さらば」


     7


 大統領は命からがら沈みつつある不沈軍艦ホノルル号を退艦《たいかん》した。
 後がワシントンに帰ってきたときは、出かけるときとはちがって、大した上機嫌《じょうきげん》であった。
「さあ、余は百隻の不沈軍艦を、これから一年間のうちに所有することになるぞ。早速《さっそく》建艦命令|教書《きょうしょ》を書くことにしよう。おおヤーネルか、すばらしいじゃないか。再生のわが不沈艦隊は……」
「しかし……」とヤーネルは、不審《ふしん》の様子で、大統領のよろこぶ顔を見上げていう。
「不沈軍艦建造案は、たいへんよろしいですが、大統領閣下、それに使うゴムはどこから手に入れるのでございましょうか」
「なにゴム? ゴムは蘭印《らんいん》マレイから……いや失敗《しま》った」
 とたんに大統領は、蒼白《そうはく》になって、椅子の
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