ってしまった。
こんどこそは沈んだらしいと思っていると、間もなく水柱が、ざざーざっと海面に落ちこぼれると、あーら不思議、金博士の驚異軍艦ホノルル号の厳然たる姿が、神のごとくはっきり浮び出たではないか。
「ああっ、ちゃんとしている……」
嘆息《たんそく》と畏敬《いけい》の声が同時に起る。
「三十八弾命中!」
と、空中からの報告が届いたのは、このときであった。
「なんだ、三十八弾命中? しかし、ホノルル号は顛覆《てんぷく》もしないでちゃんと浮いているぞ」
と、大統領の嘆声《たんせい》。そのとき金博士が傍《そば》へ近づいて、ホノルル号からすこし放れた海面において新たにぽかりぽかりと盛り上る大きな泡《あわ》をさして、何やらいって、ふふふふと笑った。大統領は、蒼褪《あおざ》めた長い顔をしきりに縦《たて》にふって肯《うなず》く。
「ふーん、三十八弾、いずれも甲板から艦底に通り抜けたか。しかも穴一つ明かず……。これは驚異じゃ。ハワイ海戦の前に、これを知って居たらなあ。ちえっ、遅かった」
と、大統領は、かぶっていた帽子を手にとって、両手でびりびりと引き破った。
「雷撃機出動です」
ヤーネルが、蚊《か》のような細い声でいった。
しかし大統領は、もう雷撃にはなんの興味をもっていなかった。何百本の空中魚雷をうちこもうと、到底《とうてい》あの驚異軍艦を撃沈することは出来ない。今や彼の灼《や》けつくような好奇心は、かくも不思議な奇蹟を見せる驚異軍艦の構造の謎の只一点に集中されていたのであった。
「見せてくれ、あの驚異軍艦の中を! わしは直《す》ぐ、あれを真似して百|隻《せき》ばかりこしらえるんだ」
大統領は、あえぎながら、金博士の胸倉《むなぐら》をとって哀訴《あいそ》した。
「御覧になれば、なんだこんなものかと思われるですよ。はははは」
と、金博士は謙遜とも皮肉《ひにく》とも分からない笑い方をして、大統領をはじめ、建艦委員たちを案内して、驚異軍艦ホノルル号についていった。
6
艦《ふね》には、ふしぎにも、水兵一人居らなかった。そしてぷんぷんとゴムくさかった。
「一言にしていえば、つまりこの艦は、艦体《かんたい》を厚いゴムで包んだものと思えばよろしい」
と、博士はひどく気のなさそうな声でもって説明を始めた。
「しかし本当は、もっと複雑な構造をもっているん
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